COME TOGETHER(カム・トゥゲザー)

2018.11.14  川上村

写真・文=エリック・マタレーゼanaguma文庫

川上村の中でも東部、吉野川の上流に位置する上多古(こうだこ)。大峰山の麓を流れる上多古川は、地区に沿って折れながら吉野川の本流へと合流する。

この上多古の中心地に「東屋(あずまや)」がある。長い冬が春に移り、暖かくなるにつれて、上多古のみんなはこの東屋に集まる頻度が上がる。区内清掃の朝には、東屋で集まってからそれぞれの担当場所に行く。清掃が終わったら、何人かで東屋のテーブルを囲んで1杯か2杯、お酒を飲む。

普段、上多古の人は東屋で車型の移動スーパーを待ったり、打ち合わせをしたり、昼からのんびりしたりする。区民はそんな使い方を狙って東屋をつくったのだが、上多古区長である栢本三津留(かやもとみつる)さんは、まだ少し後悔するところがあるらしい。「東屋は10年遅かったかな。10年早かったら、みんなよく来ただろうな」と栢本区長は言う。

こちらが栢本区長。一発の冗談で誰とも仲良くなれる。

現在、上多古住民の平均年齢は72.5歳。以前は100世帯以上あった上多古は祭りも行われる賑やかな地区だったが、現在の人口は50人を切った。

上多古の中心地に立っても、最近は夜が特に暗く感じる。電気の点いた家が少なく、人はあまり通らない。たまに車は通っても、なかなか止まらない。これをさびしく思った栢本区長はまず、東屋に提灯を設置することにした。

今年の6月のよく晴れた日。区長は梯子を上り、100円ショップで買った提灯を東屋の屋根に取り付けた。自宅から東屋まで数十メートルの電線を引っ張る作業は、ずっと電気工事の仕事をしてきた区長にとっては朝飯前だった。赤、青、緑、ピンク色の提灯を屋根に設置してからしばらくの間、区長は住民から「どうした?盆踊りするけ?」と質問をされるようになったが、そんな予定は特になかった。「あそこへ夜でも涼みに出て来やすいように、明るくすればいいな」と区長は思ったのだ。

また、数ヶ月前に区長は東屋の近くにヒマワリとコスモスを植えた。「綺麗な花が咲いてるなと思って一人でも立ち止まってもらったら、一応成功です」と区長は笑った。

東屋は公民館より気楽に行ける場所であり、かつ誰の家でもないため、気を使う必要がない。その観点からすると、村外・海外から来た僕にとって、この東屋はとても有り難い場所だ。年齢と国籍を問わず、すべての人に「どうぞ、いらっしゃい」と言わんばかりに、お花が毎日陽光を浴び、東屋の提灯が毎夜点いていた。

7月のある夜、僕はギターとお茶を持って東屋へ向かった。先客が一人、ベンチで静かに座っていた。僕は簡単なコードを弾きながら、相手と雑談をした。生ぬるい風が吹いていたけれど、家の中よりは涼しかった。そのうち、もう一人が夜の暗闇の中から現れ、提灯の灯りの下に一緒に腰をかけた。そこへさらにもう一人。数えきれない数の虫も提灯に興奮してやってきた。

蚊取り線香の匂いには慣れたが、メガネに当たる虫がまだ気になった。うちわの動きとギターのリズムを合わせるのがおもしろくなって、二人は爆笑していた。テーブル越しの四人のあいだに、とても自然なやりとりがあった。

「今は森林やけど、昔は神社の上の山で畑をしとったんよ」

そんな昔話や、最近出没する動物についての話をした。会話の間、上多古川の流れる音と虫の鳴き声が聞こえた。長くて暑い一日の終わり、この涼しくてわずかな時間を楽しんだ。

ある人がCDプレーヤーを持って来て、石川さゆりの曲を流しながら編み物の作業をした夜もあった。大阪在住の上多古出身の人が実家に帰ってきた時には、彼は幼馴染と東屋で酒を飲んだ。8月の区内清掃の後には東屋の前で長い竹を繋げ、初めて流しそうめんをした。

別の日には、ギターを弾きながらトランペットを吹く友達と一緒にパフォーマンスをした。もちろん栢本区長は上多古のみんなを呼んでくださった。どんな集いでも、区長は会話にユーモアを交え、相変わらずみんなを笑わせた。虫の鳴き声と川の音と音楽で溢れた夜を過ごしながら、今年の夏は去年より賑やかで、あっという間に過ぎてしまった。

9月の中旬ごろからだんだんと寒くなり、そのうち長袖が必要になった。次々と来る台風の後、気温が下がり、夜から東屋に行くことも少なくなった。家の中で本を読んでいても、谷で響く鹿の鳴き声が聞こえ、秋になったと実感した。

ある日、東屋の提灯が片付けられたと気がついた。夜が一際暗くなり、これからさらに寒くなる。お湯を沸かしてお茶を淹れているとふと、そうめんを食べ過ぎた日、ビールを飲み過ぎた夜のことが蘇ってきた。栢本区長はこんなことを言っていた。

「一回足を運んで夜でも座ってもらって、雑談でもしてもらって、『楽しかった〜』って帰ってもらって、『また雑談しに行こうか』って来てくれるのが一番だね」

来年、上多古の平均年齢がまた少し上がっても、暖かくなった頃に僕は雑談しに行くことを楽しみにしている。

text エリック マタレーゼ (anaguma文庫)