図書館に命を吹き込んでくれた「中峰工務店」の中峰さん

2018.3.13  東吉野村

イラスト・文=青木海青子人文系私設図書館Lucha Libro

私と主人が、東吉野村に家をお借りして開設した「人文系私設図書館Lucha Libro(ルチャ・リブロ)」。築約50年ほどの民家の中に、がっしりした木製の本棚がずらっと並んでいます。「Lucha Libro」は私たちの自宅でもあるため、この沢山の本棚がなければ、私設図書館には見えないかもしれません。

そんな本棚をつくってくださったのが、東吉野村・伊豆尾におられる「中峰工務店」の中峰一好さん。本棚だけでなく、当館全体の補修をしてくださった大工さんでもあります。

 

空き家を住めるように補修する必要があるということで、東吉野村役場からご紹介いただいた中峰さん。廊下やトイレなど、補修していただいた後も、家のことで細々と困った際は相談にのっていただいていました。

本棚の相談をした時も、はじめは「買った方がええよ…」と言ってくれたので、大雑把な設計図をスケッチブックに描いて「こういうものが必要なんです。こんなに沢山棚が必要なんです」とお伝えしました。すると、なんと「数が多いから、できあがった木材を買うより、木を伐り出して木材にするところからやった方が安い」と言ってくださいました。

中峰さんのご自宅に遊びに伺う機会があるのですが、中峰さん宅にも本が沢山あります。息子さんが農学博士で昆虫館の館長をされているので、動植物の図鑑なども並んでいます。中峰さん自身にも「あの木は何でしょう?」と伺うと、図鑑を手に教えてくれることも(自分で調べたら良いのですが、お詳しいのでついつい聞いてしまいます)。

そんな中峰さんなので相談しやすく、実際とてもしっかりした本棚をつくってくださいました。

素敵な本棚とともに私設図書館を運営して約2年。現在でも、釣り名人でもある中峰さんが釣った魚を届けてくれたり、息子さんが帰省されるタイミングでご自宅にお邪魔したり、本当にお世話になっています。

学生時代、近世の奇談(奇なる話、珍しい話を集めた文学の一形態です)について調べていたこともあり、民俗学が好きで、不思議な話や、その土地に伝わる風習などを聞かせてもらうシチュエーションに憧れていました。ただ同時に、現代社会に普通に暮らしていて、そうした場面に出会う事は生涯ないのだろうと半ば諦めていました。

中峰さんとお話すると、そんな学生時代の憧れが現実になるようで、感動に近いものを覚えています。「神棚と仏壇とお地蔵さんの、目線の高さの違い」だったり、「屋内における鏡の位置の重要性」だったり。いつまでも聞いていたくなるようなお話ばかりで、ご自宅にお邪魔するとついつい長居してしまいます。奥様もそんな私たちに、鈴のような声で合いの手を入れながら、おいしい手料理をご馳走してくださいます。

東吉野に転居してから、中峰さんをはじめ「何だか、物語の中のようだ」と思う人や場面に出会うことが増えました。「Lucha Libro」自身も「橋を渡って林を抜けたところにぽつんと図書館があり、若い女性が居て…」という『舌切り雀』に出てくる「雀のお宿」のような図書館をやっています。

はじめてご来館されたお客様がそのようにご友人にメールをしたら、「狐に化かされていると思うから、戻ってこい」と言われたそうです。また、先日家人からの電話に出られず、折り返して私が言った言葉も「ごめん、ちょっと竹伐ってた」でした。

たまに取材などで「(私設図書館を開くことが)夢だったのですか?」と質問していただくことがあるのですが、図書館を開くという発想自体、元々持っていたものではなく、それこそ夢にも思いませんでした。しかしながら、村に暮らして中峰さんのような方と接する中で、本を開いてぼんやり抱いていた憧れ、抱いたことすら忘れていたような憧れを思い起こしています。

そういう意味では、私の潜在的な夢は叶っているのかもしれません。

 

text 青木 海青子 (人文系私設図書館ルチャ・リブロ)