「彼岸」の図書館を訪れる人々との、本を介した交流について

2018.3.17  東吉野村

イラスト・文=青木海青子人文系私設図書館Lucha Libro

東吉野村・鷲家に「人文系私設図書館Lucha Libro(以下、ルチャ・リブロ)」を開いて、この6月で2周年となります。

「橋を渡って林を抜けたところにぽつんとある図書館」も少しずつですが認知していただくようになりまして、2017年には約90日開館し、400人くらいの方にご来館いただきました。

「雀のお宿」のような「ルチャ・リブロ」を訪れるお客様は、概して酔狂というか、いい意味で個性的な人が多く、そういう方々に支えていただいています。私たちとしては、家で座っているだけで面白い人たちが訪ねて来てくださるので、とても恵まれた状態だと感じています。

そもそも東吉野村で図書館を開いたのは、吉野町で「ゲストハウス三奇楼」の管理人をされている渡會奈央さんや、「オフィスキャンプ東吉野」の坂本大祐さんとのご縁によるもので、当初はもう少し街中での開設を考えていました。しかしながら実際開いてみると、東吉野の山中で本当に良かった、と思います。

元々個人で持っていた蔵書で開いた私設図書館(個人文庫)なので、本棚をご覧いただくことは、自分たちの頭の中を曝け出しているようなものなのです。ある種、カミングアウトをしているような感覚です。

閉架にしている本はほとんどないので、自分たちの足りない部分や、偏った部分も「どうぞ!」と公開しているのと変わりません。そのため、ぶらりと立ち寄ることができる街中よりも、山の中の図書館を面白いと感じた方が、わざわざ足を運んでくださる現在の場所が、ちょうどいいと感じています。

 

来館いただくお客様も、橋を渡って林を抜けることで、普段の価値観や基準を一旦置いて立ち止まり、リラックスしていただいているような気が。川のこちら側にあるのと、世の中のそれと少し違う基準で運営していることから、仮装の「彼岸」のようなものだと思っています。

好きな本や作家の話をすると、それだけで志向だったり、重きを置いていることが明らかになるので普段はあまり人に話さない、という方もいらっしゃいます。

しかしながら当館の場合、こちらが本棚で先にカミングアウトをしているため、その中でご自身と共通する部分を見つけて、ひっそりと教えてくださる時があります。本を介すると一気に距離が縮まって、常連のお客様とは親しくなることも少なくなく、山の中に住んでいるのに、街にいる時より友人が増えたような気がします。

普段は「図書館の自由」の遵守だったり、「彼岸」でお話してくれたことを橋の向こうに持ち出さない、という自分の決めごともあるのですが、今回はほんの少しだけ常連のお客様とのエピソードをご紹介します(本人に掲載のご了承いただいています)。

常連のお客様の中では、交流の歴史が一番長いかも、と思われるご夫妻がいらっしゃいます。はじめてご来館されたのは、図書館を始めて間もないころ。仕事先の家人から「来館しようとこちらを目指してくださっているお客様がいる」との連絡が入りました。今のように立て看板やライトもなく、どう見てもただの民家だった「ルチャ•リブロ」に、迷いながら、なんとか辿り着いてくださいました。

お二人の雰囲気があまりに洗練されていて、「うちにご満足いただける本があるかしら…」と心配していましたが、とてもじっくり読書を楽しんでくださっていました。お話してみると、なんと奥様が、中将姫を題材とした折口信夫の『死者の書』がお好きとのこと。私も大好きな作品で、奈良に来てから更に身近に感じていた作品だったので、そこから意気投合して、本の話に花が咲きました。

現在お二人が住んでいる場所は決して東吉野から近くありませんが、気持ちの上ではとても身近で、その後お互い行き来するほど親しく交流しています。折口信夫の生誕130年記念の特集展示を観に行かれた奥様が、自装本の限定復刻版を「ルチャ•リブロ」の分も買ってきてくださるなんてことも。

本を読む理由は人それぞれ、その時々ですが、誰かと心を通わすために読む、というのもそのひとつかもしれません。昔から本が好きで、人生に影響を与えた本もたくさんありますが、その魅力を共有できる方々と、時を越えて出会っている最中です。橋を渡って林を抜けたところにある「彼岸」の図書館で、今日も本のお話ができるのを楽しみに、扉が開くのを待っています。

 

 

 

text 青木 海青子 (人文系私設図書館ルチャ・リブロ)