毎⽇、⾃分でつくったお茶を飲む。 下北⼭村で知った、贅沢な選択。

2018.7.26  下北山村

写真・⽂=藤本千幸SHIMOKITAYAMA BIYORI スタッフ)

 

こんにちは。下北⼭村にある「BIYORI(びより)」というコワーキングスペースのスタッフをしている藤本と申します。

突然ですがみなさん、毎⽇どんなお茶を飲んでおられますか?

私は結婚を機に奈良県天理市からここ下北⼭村へ住まいを移すまで、「お茶は買うもの」と思って⽣活してきました。ショッピングセンターで⼤袋⼊りのものを買ったり、たまにお茶の専⾨店で買ってみたり。

下北⼭村は、春の新芽でつくる「ばん茶」が特産品に名を連ねているところ。

村で暮らすようになり、⽇頃からお家で「ばん茶」を飲むというお話や、茶粥にして⾷べるというお話を聞いてはいたのですが、それは下北⼭村にもお茶農家さんがいて、農家さんがつくったお茶を村の⼈が買って飲んでいるのだと思っていました。

ある⽇、「お茶摘み⼿伝いに来る?」というお誘いをいただいたのです。そのとき、私から⾃然と出てきた⾔葉。

 

「あ、ご実家はお茶農家さんなのですね!」

 

その⼈はにこりと笑いながら、「違うよ」と教えてくれました。

よくよく聞いてみると、なんと、それぞれの家庭でお茶を摘んでいるとのこと。あるお家は、家族が飲む⼀年分のお茶をこの時期につくってしまうそうです。

まず、「お茶って家でつくれるんだ!?」と驚き、それが、下北⼭村の⼈にとっては当たり前の習慣・⽂化にであることにまた驚きました。

私が摘ませていただいたお茶の⽊がこちら。

そう、道路脇に並んで⽣えているこの⽊がお茶の⽊なのです。こんな⾵に、道沿いに何気なく植えられているとは…。

お茶の新芽は潤っていて、⽣き⽣きツヤツヤとしています。「おいしいお茶にするからね」と⼼の中で話しかけながら、プチプチと摘みとっていると、時間はあっという間に過ぎていきます。

このカゴは代々使われている⼿作りのものらしく、⽊を薄くして編んであるのです。素敵。

午前中に3 ⼈で摘んだ茶葉の量は2 カゴ分。「摘むだけ」と油断していましたが、実はとても重労働でした。

昨年、東京から村にU ターンされた⼭岡さん

次に、下北⼭村の各家庭には⼤抵あるという⼤きな鍋で葉を炒ります。だんだんとしんなりしてくると、⻘葉の匂いから、お茶の⾹りに近づいてきました。

炒ったお茶をゴザの上で揉みます。⼭岡さんのお⽗さん⽈く120 回揉まないといけないのだとか。揉んでいると葉の成分なのか、べたつきが出てきます。

揉み終わった茶葉をザルに開けて、さらに捻をかけます。

最後に、ゴザの上で数⽇天⽇⼲しします。ちなみに隣の濃い⾊の茶葉は前⽇に摘んで⼲されたもの。1 ⽇でこんなに姿が変わってしまうのですね。

そして下北⼭村茶は、飲む前にも⼀⼿間かけます。

茶葉を軽く空炒りすると、キッチン全体に広がる⾹ばしい⾹り。

⾃分で摘んだお茶はより⼀層おいしく、それをお気に⼊りの湯のみで飲むのは、私にとってとても贅沢な時間です。⾹ばしい⾹りだけでなく、ほんのり⽢みを感じるのは少し贔屓なのかもしれません。

四⽉末から五⽉の間で、お茶がいい摘み時になるのは⼀週間程度。この時期のよく晴れた⽇には、村内の⾄る所でお茶を摘む⼈の姿を⾒かけます。畑の中に植えてあったり、道の端に⽣えている⽊をご近所さんと分け合いながら摘んだり。

下北⼭村内の地区同⼠でも、少し作法に違いはあるようで、例えば⼲し終わったらすぐに飲む地域もあれば、お盆が過ぎるまで寝かすところもあるのだとか。

実際にお茶をつくってみて、その⼯程は私の中で、決して楽ではありませんでした。

にもかかわらず、村の⼈たちはなぜ毎年⼿間暇かけてつくるのか、聞いてみました。するとこんな答えが。

 

「ここでつくった、このばん茶が⼀番おいしいからだよ」

 

下北⼭村ならではのお茶づくりに、各家庭で代々引き継がれてきた我が家の⼯夫。さらに、⾃分の⼿で愛情を注ぎ込んでつくったお茶を飲む⼈びと。そんな下北⼭村の丁寧な暮らしに、私もお茶を通して触れることができました。

 

「村には何もないでしょう?」「⾃然しかないでしょう?」

 

そう村の⽅に⾔われることがあります。

確かに、スーパーや映画館、美術館などは村内にはありません。

しかし、“何もない”のではないのです。⼤きな⾃然があるのです。それは「お茶は買う」という選択肢しか持っていなかった私に、「⾃分で茶葉を摘み、炒って飲む」という選択肢を教えてくれました。下北⼭村での⽣活は⽇々、私にとって⽣きていく上での選択肢を増やしてくれています。

⽥舎で買うところが少ないからという理由でつくるのではなく、買うという選択肢を持ちつつ⾃分でつくるという選択もできる、この村の⽣活の豊かさに出会った春でした。

気をつけて歩いてみると「BIYORI」の近くにも、誰かが植えたのであろう
⽯垣から⽣えるお茶の⽊がありました。

text 藤本千幸 (BIYORI)