• HOME
  • レポート
  • 五條市
  • 生まれ育ったまちに教育を通じて還元したい。「GOJOチャレンジ」米田裕佑さんが生みだす良循環。

生まれ育ったまちに教育を通じて還元したい。「GOJOチャレンジ」米田裕佑さんが生みだす良循環。

五條市

取材・文=柗本幸実 写真:柗本幸実、米田裕佑

江戸時代の街並みが残る重要伝統的建造物群保存地区「五條新町通り」。タイムスリップしたような気分で通りを進んでいくと、古民家「みよし邸」が見えてきます。

2016年、その「みよし邸」を拠点に「株式会社GOJOチャレンジ(以下、GOJOチャレンジ)」が設立され、教育事業として「10年、20年後の五條市を担う人財を輩出する」という理念のもと始まったのが「五條しんまち塾」です。

今回は「五條しんまち塾」の教室長・米田裕佑さんに、「教育」という仕事や大切にしていること、未来へのイメージなどを伺ってきました。そこには、自らの強みである「教育」を通じて地元「五條」へ貢献することにやりがいを感じながら働く、一人の若者の姿がありました。

「五條新町」は、「二見城」の城下町として生まれ発展しました。

 

米田裕佑(コメダユウスケ)
奈良県五條市出身。奈良工業高等専門学校へ進学後、「教えることを仕事にしたい」と広島大学へ編入。卒業後、中学校の技術科教諭として働く中で、「生徒に教える立場として人生経験が薄い」と感じ、周囲からの影響もあり留学を決意。オーストラリアでの1年間の留学生活で英語の魅力に気づき、英語が「教えたいこと」のひとつに。帰国後、五條市内で子どもたちを対象にした英会話講師を経験し、2019年5月より「五條しんまち塾」で教室長を務める。

 

一「五條しんまち塾」で学べる内容や特徴を教えてください

「GOJOチャレンジ」は五條の地方創生を目的とした会社です。五條の地方創生に向けてすべきことは色々あると思いますが、「五條のことが好きで、(僕たちと一緒に)五條の未来を明るく灯してくれるような若者を育てていくこと」が一番大切という考えから「五條しんまち塾」ができました。

当塾では、試験や受験に向けた教科指導や英検対策、プログラミング教室、ふるさと学習を行なっていて、目の前の成績アップはもちろんですが、自分で計画や目標を立て、実行する力を育むことに注力しているのが特徴です。

勉強が苦手な子は、「これくらい勉強しなければ」と思っていても行動に移せなかったり、「何がわかっていて、何がわかっていないか」を言語化できなかったりと、「社会に出てからも必要な力」を十分身につけられていない子が多い印象があって。こうした力が育ってくれば、学校の成績も自ずと上がってくるんです。

そして、もう一つの特徴は、地元のことを知って好きになる「ふるさと学習」を行なっていることです。子どもたちには、先ほど話したように「社会に出てからも必要な力」を身につけてもらった上で、進学や就職などで他の地域へ出たとしても「いつか戻ってきたい」と思ってもらえるような愛郷心を持ってもらうことを大切にしています。

真ん中にある古民家が「みよし邸」

和と洋がともにある学びの場

 

一「ふるさと学習」の内容が気になります!

「ふるさと学習」では五條の良いところはもちろん、逆に何が課題で、それをどのように解決すれば、もっと良いまちになるのかということを、子どもたちと一緒に考えています。これまで、多学年の子どもたちが楽しく交流しながら郷土史を学ぶイベントを行ったり、毎月生徒と「FM五條」(五條市のコミュニティラジオ)に出演したりを通じて、学びのアウトプットをしてきました。

たとえば、「榮山寺」(五條市にある創建1300年を越えるお寺)の歴史を調べて、子どもたちがラジオで発表したり、「これから五條を盛り上げるために自分だったらどういう企画をするか」を子どもたちと一緒に考えたり。

FM五條の収録の様子

 

コロナ禍の影響で、地元の食材を使ったバーベキューや、子どもたちが混ざって楽しむイベントはできなくなりました。そんな中でも、ラジオはリモートで収録し、新たに「ふるさとクイズ」という企画も始めました。

「2020年の五條市の人口は?」「新町通りができたのはいつ?」などの問題に正解するとポイントが貯まり、景品と交換できる企画です。最初は、僕が問題を作っていたんですけど、子どもたちに考えてもらうようにしています。工夫しながら、「ふるさと学習」を続けていきたいですね。

毎年恒例だった地元食材を味わう夏のバーベキュー

 

一「五條しんまち塾」で働くに至った、いきさつを教えてください。

中学校教諭、オーストラリアへの海外留学、英会話講師などを経てきたんですが、英会話の力をつけた上で、「何でも教えたいことを教えられる」自分であれるように、開業しようと思ったんです。そして五條市内の塾をリサーチする中で見つけたのが、「五條しんまち塾」でした。ホームページもクオリティが高く、良い意味で違和感がありました。

塾長である木村航さんが開業に至ったストーリーが気になって仕方なく、すぐに「お話だけでも聞かせてください!」と連絡したんです。すると「いいですよ!」とお返事をもらって、せめてものお礼にとお菓子を山ほど買って(笑)、塾を訪ねました。

がらがらと玄関が開いて、今日も子どもたちが集まる

 

単に勉強ができるだけでなく、社会に出てからも役立つような力を養っていくスタイルや、自分にはなかった「地方創生」の観点の話を木村さんから聞いて、とにかくワクワクしました。

たまたま、「プログラミング教室」を今後やっていきたいという話もあって。僕の卒業研究は、高専、大学ともにプログラミングに関する内容だったんです。パソコンやプログラミングに強いところなど、今までの経験を無駄なく活かせそうやなと思いました。

ここで自分の好きな「教えること」を子どもたちだけでなく、五條のためにも役立てられれば、今よりもっと幸せやなと。今思えば、「五條しんまち塾」との出会いは巡り合わせという感じで、ほんまにラッキーやったと思います。

 

一コロナ禍で子どもたちや塾に起きた変化はありますか?

学習については、コロナ禍になってすぐの3月からオンライン授業を開始しました。もともと、当塾ではICT教材を使った教科指導を行なっていて、また、仕事でリモートによるマネジメントをやり続けてきた経緯もあって、そういうノウハウを活かすことで、スムーズにオンライン授業が開始できたんです。

多くの方の協力や支援のおかげで、完全オンラインの時期を乗り越えることができ、今は対面とオンラインの両方に対応しています。ほとんどの子は対面ですが、「送迎の都合で今日はオンライン」など柔軟な対応が可能になりました。

コロナ禍の教科指導の様子

 

一「五條しんまち塾」で米田さんが特に大切にしていることはありますか?

僕自身が、この仕事にちゃんとやりがいを感じるということですかね。塾で働く前から、漠然と「五條が好き」というのはあったのですが、子どもたちに「教える」ことが生まれ育ったまちに還元されるというのは、僕自身のやりがいにつながっています。こういったやりがいを感じながら、子どもたちに関わることは、単に勉強のために勉強するのではなく、子どもたちの人としての厚みの部分に何か活きてくるんじゃないかと思っています。

あとは、親御さんもお子さんの教育に巻き込むということです。巻き込むというのは「家で教えてくださいね」ということではなくて。たとえば「勉強しなさい」と言うと、かえって学習時間や効率が下がってしまうかもしれないとか。ちょっとした関わり方や声の掛け方で子どもの反応は変わってくることを、親御さんとのやりとりやブログなどでお伝えしています。

地道に発信していくことで、「こんなことを聞いたよ」と情報が広がり、「五條の子育て」として根づいていって、もっと伸び伸び・いきいきとした子が育っていくような環境が生まれたらなと。ちょっとおこがましい気もしますけど。

塾から歩いてすぐの吉野川河川敷。米田さんが見ている景色。

 

一住民として、地元に残したい風景はありますか?

道端や店先で、ふと出会った人との会話が「こんにちは」で終わらず、キャッチボールが最低でも2往復はするイメージがあって。そういう風景は残っていったらいいなと思いますね。

おしゃべり好きのカルチャーと言いますか。他人に興味を持っている人が多いのでしょうか。あんまり他人に構われたくない人もいると思いますが、僕は自分がしてもらってきたように、積極的に関わる側でありたいなと。

できるだけ自然は今あるまま残っていったらいいなと思います。育った環境が影響しているのか、自然を通じて四季を感じられることにすごく幸福感を覚えます。

春は各所の桜、夏は山々の濃い緑と青い空と入道雲、秋は稲穂と赤とんぼ、冬は雪化粧をする金剛山。僕が特に好きなのは、うちの近所の夏の朝。4時ごろの風景ですね。

米田さんが撮った動画「カエルの声とちょっとだけヒグラシ」の朝の風景

 

一こうなったらいいなと、今後イメージしていることはありますか?

将来、ここで学んだ子どもたちの誰かが、五條を一緒に支えてくれることを目指して教える仕事をしているので、生徒たちやOB・OGの子たちと何か企画して、色々な人が楽しんでくれるイベントがやれたらいいなと、ぼんやり思っています。

五條には「吉野川祭り」や「かげろう座」といった、人と人が集まって楽しむお祭りカルチャーがあります。でも、地元の秋祭りの神輿は子どもが少なくなり、なくなってしまうなどの現実もあるんです。たとえば、子どもの人数が少ない地区の子たちでも、お祭りそのもの、あるいはお祭りに近いような楽しいことを体験できるように、彼らと関われたらいいなと。

僕自身は「こういう面白い人がおるから五條に行ってみたい」と思ってもらえるような人でありたいですね。これまで五條新町で出会った人たちと、これからも関わり続けていきたいし、まだまだ知らない人が多いです。五條で、もっと人と人の化学反応が起こるといいなと思います。

 

– – – インタビューはここまで – – –

 

米田さんに初めて会った時の印象は、「アロハシャツのポジティブお兄さん」でした。

今では、五條新町通りにゆかりのある同世代の仲間です。これまで幾度となく、何気ない会話は交わしてきたけれど、インタビューを通して「教える人・米田先生」とは初めて話したような新鮮な気持ちになりました。

そして教育の現場にいる米田さんだからこそ生みだせる「地元を思う気持ち」の良循環が始まっている予感がしました。その循環の過程で、今後どんな人と人の化学反応が起こるのか。今からとても楽しみです。

 

柗本 幸実

1,207 views

奈良県五條市生まれ。作業療法士。「地元で暮らすひとが最期までらしくあるには」という問いとゆるく向き合う。住まい以外の暮らしの拠点として、町家を借りている。

プロフィール

関連記事一覧