“遠つ側”と呼ばれた秘境・十津川村の暮らしを支える、地場産業の担い手たち。

十津川村

写真=西岡潔 文=赤司研介(SlowCulture

紀伊半島の内陸部、奈良県最南端にある“日本で最も大きな村”十津川村。土地の96%は山林に覆われ、耕作地はほとんどない。しかし、この雄大な山々や険しい地形によって生まれた産業が村民によって営まれ、村を、暮らしを、支えている。今回は、十津川村の産業の担い手たちを紹介する。

「谷瀬ゆうべし組合」黒岩大朗さん

「ゆうべし」という食べ物をご存知だろうか。「ゆうべし」は、古くから十津川村に伝わり、珍味としても人気を集めている保存食である。

谷瀬と呼ばれる集落での「ゆうべし」づくりは毎年11月中頃、ゆずを収穫するところから始まる。

ゆずの果肉をくり抜き、その中に味噌・そば粉・干ししいたけ粉・ピーナッツ粉・一味唐辛子・かつお粉などを混ぜて詰め、蒸して干し、乾燥させてできあがる。

約2ヶ月のあいだ干され、吹き上がる寒風にさらされる「ゆうべし」は谷瀬の風物詩だ。

 

多い年で2千個ほどを生産。手の空いている谷瀬の住民が加工場に集まり、共同で作業して、2~3日で詰め切ってしまうそうだ。

みんなの顔を見ながらワイワイ作業するのは楽しいです。

そう話すのは、愛媛県の離島から5年ほど前に谷瀬に移り住んだ黒岩大朗さんだ。

当初は玉置神社の社寺賄いをするために移住したが、現在は、田畑、農産物の加工品の生産・販売を生業の主としながら、春の時期は「つり橋茶屋」の店長、Webのプログラミングや建設会社での品質管理、木工など、さまざまな収入源をつくりつつ、四季に合わせて健全に生きる生活を追求しているという。

集落について聞くと、「谷瀬の人たちは、自分たちが暮らす場所は自分たちでより良くしていこうという自治の気持ちが強いんです。しかもそれを収入にまでもっていくことができるんですよね」と黒岩さん。

その言葉通り、「谷瀬ゆうべし組合」は生産拡大に向けて、手狭になった加工場の移転を計画中。建設予定地の周囲には10本ほどのゆずの木を新たに植えるという。収穫できるようになるのは10年後。奥大和の伝統食を受け継ぐ苗木は、すくすくと育っている。

谷瀬ゆうべし組合
奈良県吉野郡十津川村谷 0746-68-0301

「上湯川きのこ生産組合」西竜一さん

ピラミッド型の棚に並べられた膨大な数の瓶の中から、さらに膨大な数のきのこたちが顔を出している。そこには、人の手がつくる、圧巻の風景が工場の中に広がっていた。

「上湯川きのこ生産組合」が栽培するのは、なめこ・しめじ・エリンギ・ひらたけの4種類。主力商品であるなめこは、年間約100トンを生産し出荷している。

瓶の中に広葉樹のおがくずやウイスキーのしぼりかすなどをブレンドした培地をつくり、種菌を植える。
温度と湿度管理を徹底し4ヶ月おくと、見事ななめこが発生してくる。

 

組合が発足したのは昭和57年。前代表の岡本章一さんを中心に、試行錯誤を積み重ねてビジネスを軌道に乗せ、今では24名が働いている。いずれも十津川村民だという。

そして平成30年の9月、岡本さんから代表の役目を引き継いだのが、十津川村出身の西竜一さん。十津川高校を卒業してすぐ組合に加わり、勤続20年を超える生粋の十津川人だ。

その西さんは、目下の課題を「新たな人材の確保」だと語る。従業員の高齢化が進む中、来年からは十津川高校の卒業生たちにも積極的に声をかけていく予定だという。

つくればつくるだけ売れる。にも関わらず、つくる人的余裕がない。若い世代が入ることで生産効率もあがれば、余裕ができるはず。そのときは、新たな種類にもチャレンジしていきたいですね。

西さんは夢を見据えながら、目の前の課題と向き合っている。

上湯川きのこ生産組合
奈良県吉野郡十津川村上湯川401-4 0746-64-0677
info@kamiyukawakinoko.com 

「十津川木工家具協議会」中山直規さん、村尾守さん、坂口明裕さん

十津川村は平成23年の紀伊半島大水害を機に、村を挙げての林業再生に着手。山づくり・製材・加工・販売を村内で一貫管理した木材生産を行うなど、林業の6次産業化を目指してさまざまなプロジェクトに取り組んでいる。

そのうちの一つが、村産材でつくられた家具や木工品の展示販売拠点「KIRIDAS TOTSUKAWA」だ。

もともと森林組合の木材加工施設だった建物をリノベーションして、2017年にオープンした当施設の運営を担うのは、村内の木工家たちで構成される「十津川木工家具協議会」の中山直規さん(写真右)、村尾守さん(写真中)、坂口明裕さん(写真左)の3人。

それぞれ、併設される工房で協議会に発注される家具や個人として依頼された木工品などを製作する傍ら、土日は交代で「KIRIDAS TOTSUKAWA」の店頭に立ち、来店客と交流しているという。

「十津川木工家具協議会」では、2種類のシリーズを展開。

一つは、家具デザイナー・岩倉榮利氏の指導のもと、スギ・ヒノキの無垢材を加工した重厚感ある「Totsukawa Living」。もう一つは、軽量感のあるシンプルなフレームが特徴の「KIRIDAS ORIGINAL -GRID SERIES」。どちらも「KIRIDAS TOTSUKAWA」に展示されている。

「今後は『KIRIDAS ORIGINAL』という独自ブランドの製品を数多く展開し、販売していきたい」と中山さんは話す。店内にはコーヒースタンドもあるので、ぜひ気軽に訪れてみてほしい。

KIRIDAS TOTSUKAWA
奈良県吉野郡十津川村山崎278 050-5005-4007
kiridas_totsukawa@kcn.jp 営業時間:土・日曜の11:00〜17:00

赤司 研介

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SlowCulture代表/編集者・ライター。 1981年、熊本県生まれ。神奈川県藤沢市で育ち、2012年に奈良県へ住まいを移す。宇陀市在住。2児の父。より自然である「健やかな選択」をする人が増えていくためのさまざまな編集・執筆に取り組む。編集ユニット「TreeTree」共同代表。奈良を日英バイリンガルで編集するフリーペーパー「naranara」編集長。NPO法人「ミラツク」研究員。Webマガジン「greenz.jp」や「京都市ソーシャルイノベーション研究所 SILK」のエディター・ライターとしても活動中。

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